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北本自然観察公園 自然観察記録 2003年5月 |
2003年7月4日更新
埼玉県自然学習センター
【2003年5月31日(土)】
○公園の園路脇のあまり陽の当たらない場所で、茎の先に穂状花序を出し小さな米粒のような白い花を点々と付けて、フタリシズカがひっそりと咲いています。米粒のような白い点々は雄しべで、雌しべは内側に隠れていて花びらもガクもないという花です。名前は能の「二人静」に由来し、花を付けた二本の茎を、同じ姿で同じ踊りを舞う静の亡霊とその亡霊が取りついた菜摘女に見立てたといわれています。公園のフタリシズカの花の茎も2本から6本とまちまちなのも、亡霊のなせる技と思えば何となく納得させられます。
【2003年5月30日(金)】
○公園でクワ(マグワ)の実が熟して園路に黒っぽい実が沢山落ちています。踏むと赤紫色の汁が出てきます。埼玉は養蚕県だったので県内至る所にクワの木が植わっており、公園のクワの木も近所で養蚕をしていた名残と思われます。クワの実は初めは緑色から赤色、そして最後は赤紫色を帯びた黒っぽい色に変わり、この黒っぽい色を「どどめ」色といっています。クワの実はさわやかな味と野趣あふれた酸味が程良く混ざり合って、ジャムなどを作ると大変美味しく出来ます。6月28日にはクワの実でジャムなどを作る「手づくり実験教室」のイベントがセンターであります。
【2003年5月29日(木)】
○オオムラサキと共に里山を代表するチョウのゴマダラチョウが、公園のエノキの周辺を滑空しながら飛んでいました。年2回発生する白黒のツートンカラーのチョウで、春発生する春型は白紋が発達して白っぽいチョウに見えます。成虫は花に訪れることは希で、コナラやクヌギ、エノキなどの樹液に飛来します。この他この公園で今見られるチョウはキチョウ、モンシロチョウ、コミスジ、キタテハ、ヒメウラナミジャノメ、サトキマダラヒカゲ、イチモンジ、アサマイチモンジ、テングチョウ、ヤマトシジミ、ウラギンシジミ、ベニシジミ、ルリシジミ、アカシジミなどです。「日盛りに蝶のふれ合ふ音すなり 松瀬清々」
【2003年5月28日(水)】
○八つ橋が架かっている池で水草のコウホネが、水中から垂直に花柄を出しその先端に直径5cmほどの黄色い花を一つ上向きに咲かせています。今年は花数も多く鮮やかな黄色い花の色は、表面が光沢で濃い緑色をしている抽水葉と対比して、より美しく感じられます。コウホネという名は水中の根茎を折ると白いので、それを動物の骨にたとえて川の中の骨ということで川骨(コウホネ)と名付けられたといわれています。「河骨の金鈴ふるふ流れかな 川端茅舎」
【2003年5月27日(火)】
○北里の森の薄暗い林床でコアジサイの花が、今年伸びた枝先に散房花序に多数集まって咲いています。花は淡い青紫色に見えますが、よく見ると青色は雄しべの色で、五枚の花びらと花粉は白色です。青色の雄しべと白色の花びら、花粉がうまく組み合わさって得も言われぬ淡い青紫色に見えることが判ります。三好達治の「乳母車」という詩に「淡くかなしきもののふるなり 紫陽花いろのもののふるなり」という一節がありますが、今日のように雨模様の薄暗い日に、コアジサイが花を付けているその一画だけが、明かりをともしたようにぽうっと明るく美しく見えるような、そんな淡い幼い日のことを紫陽花に託して詩にしたものと思われます。
【2003年5月25日(日)】
○今日はセンターのイベント「テントウムシ調査」で、3班に分かれてテントウムシを探しました。結果は例年通りあずま屋付近のB班が一番多くテントウムシを見つけました。3班の合計は222匹で、ナナホシテントウが例年通り圧倒的に多く116匹と過半数を超えており、次がナミテントウの二紋型が46匹、トホシテントウの29匹、ナミテントウ四紋型の15匹でした。今年の特徴はカラスウリなどの植物を食べるトホシテントウが比較的多く見つかったことで、今年はウリ科の植物の成長が早いのかも知れません。
【2003年5月24日(土)】
○公園の中で今日はウグイスのさえずりが日がな一日聞こえました。しかし、この公園の中でも以前ほどウグイスのさえずりが聞こえなくなったといわれています。とくに都市近郊では急激にウグイスが減少しています。ウグイスはあまり高くない竹藪、それもシノタケやクマザサの生い茂った常緑低木林がブッシュ状に連なる環境を好み棲息します。都市近郊の高木が連なる管理された景観地の森ではウグイスは生きられず、また、一度に長距離を飛ばないで樹木に沿って少しつずつ前へ進むので、大きな空間が前面にあるとそこから先にも行けなくなります。ウグイスは環境の変化に敏感な鳥なのです。
【2003年5月23日(金)】
○まだ寒い2月の下旬の若葉が萌え出す以前の高尾の森で、可憐な淡紅色の花を下向きに咲かせていたウグイスカグラが、熟して中の種が見えるほど透き通った楕円形の赤い実をつり下げています。この実は甘くて人が食べても美味しいので、もう少し熟すのを待って食べようと思うとすぐに無くなってしまいます。人が食べて美味しい物は小鳥たちも美味しいに決まっています。ウグイスカグラは日本特産種の植物で、公園の中では最も早く食べられる実がなる木です。
【2003年5月22日(木)】
○公園でつる性小低木のスイカズラが甘い香りを振りまいて咲いています。つるは右巻きで伸び、葉は常緑で冬でも枯れないので忍冬(ニンドウ)の別名があります。枝先に白い花が2個並んで咲き、花冠は長さ4pぐらいの筒形でくちびる状に大きく2裂しています。花は白色から黄色に変わり、黄花(金)と白花(銀)が入り乱れて咲いているので、金銀花とも呼ばれています。スイカズラのスイは花の色が変わるので、スイフヨウのスイ(酔)と同じと思ったら、花の奥に蜜があって吸うと甘いので「吸う葛」でスイカズラになったといわれています。スイカズラの花が咲くと共に羽化したばかりのアサマイチモンジの美しい個体も目撃されています。
【2003年5月21日(水)】
○水辺の花キショウブが公園で咲いています。ノハナショウブやハナショウブよりも開花の時季が早く、日本にこの種で黄色に咲く花がなかったので、明治の中頃栽培用としてヨーロッパから輸入されました。横に生える丈夫な根を持ち繁殖力が強いので、何時しか水辺近くなどで野生化してしまいました。5月の節句の菖蒲湯に使う良い香りが有るのはサトイモ科のショウブで、アヤメ科のキショウブには良い香りはありません。
【2003年5月20日(火)】
○公園でエゴノキが今年伸びた小枝に3pぐらいの細い花柄を出し、釣り鐘状の清楚な白い五弁の花を多数つり下げて咲いています。エゴノキは欧米には無いことから欧米ではジャパニーズスノーベル(雪の鐘)と呼ばれていますが、果実にエゴサポニンを含み「えぐい」ことから、エゴノキと名付けられたといわれています。材が堅いので玩具の独楽や杖などに利用されたり、麻酔効果があるので実をすりつぶして魚取りに使われたりしていました。
【2003年5月18日(日)】
○いにしえの日本人が最も好んだホトトギスの「天辺かけたか」の鳴き声が、今日の朝、北里の森で聞かれました。「万葉集」でウグイスを詠んだ歌が52首あるのにくらべて、ホトトギスは156首と断然多く、ホトトギスの鳴き声を日本人が好んだことが伺われます。江戸時代の「東都歳時記」にも江戸市中の至る所にホトトギスの名所が記載されており、江戸時代になっても好まれた鳥であったと思われます。また、たいていのホトトギスの絵は、尾羽を上にして頭を傾け斜め下に飛ぶ姿勢で描かれていますが、これは四条円山派の構図で、実際には尾羽を水平にして飛ぶことが多いようです。
【2003年5月17日(土)】
○公園の日当たりの良い園路脇で、茂みを作るようにしてノイバラが白い五弁の芳香のある一重の花を咲かせています。ノイバラは名前の通り刺のある有刺植物で、その刺は根元から取れることから、葉が変わって刺になったものといわれています。古くは宇万良(うまら)とか花茨(はないばら)と呼ばれ、万葉の昔から知られている植物です。サクラやキク、アサガオなどといった園芸文化が花開いた江戸時代でも、ノイバラは顧みられることもなく野生のバラとして現在を迎えています。「花いばら故郷の路に似たるかな 蕪村」
【2003年5月16日(金)】
○草原の日溜まりで黄色い5弁の花を咲かせていたヘビイチゴが、直径1pぐらいの赤く熟したイチゴの様な実を付けています。実の表面の点々とした赤い粒状のものが本当の果実で、イチゴの様な実は痩果(そうか)と呼ばれるものです。この実は食べられますが、甘味が全くなくまずいので、昔の中国ではヘビでも食べるのだろうと考えて蛇苺(じゃも)といったのが、日本に入り漢字をそのまま当ててヘビイチゴになったといわれています。「枕草子」の「名おそろしきもの」の中にヘビイチゴの古名の「くちなはいちご」の名が見られます。
【2003年5月15日(木)】
○春先に地上スレスレに咲いていたタンポポの花も地上高く咲くようになり、先に咲いた花は丸い綿毛の坊主になっています。今公園で一日中咲いている頭花数の多いタンポポは、ほとんどがセイヨウタンポポで、ガクが反り返っています。タンポポは花が終わると花茎は一度地上に伏せるようにして横たわり、種子が熟する頃になると再び起きあがりぐんぐん延びて垂直に立ち上がり、天気の良い日に冠毛を開き風によって種子を飛ばします。
○「蒲公英(たんぽぽ)の絮(わた)吹いてすぐ仲好しに 堀口星眠」
【2003年5月14日(水)】
○公園の園路際でベージュ色をした体色の長さ1m余りのジムグリを見つけ、センターに持ち帰りました。主に丘陵地から山地の林床を住みかとする非常におとなしいヘビで、この公園でも余りみかけない種類のヘビです。幼蛇の時代は赤地に黒の派手な模様していますが、成蛇になるにしたがい目立たない色に変わります。くびれの少ない首に丸い鼻先は、土にもぐるのに都合が良く和名の由来にもなっています。また、腹面は市松模様をしています。6月上旬から館内で両生・は虫類の展示をしますので、それまでしばらくの間展示する予定です。「全長のさだまりて蛇すすむなり 山口誓子」
【2003年5月13日(火)】
○公園でガマズミが多数の小さな白い花を、散房状に集めて咲いています。花序は常に一対の葉がある短枝の先に咲きます。また、萌芽再生力が高い植物なので二次林などによく出てきます。ガマズミの名は19世紀初頭に成立した小野蘭山の「本草網目啓蒙」に初めて現れますが、それ以前は「キョウメイ」と呼ばれた植物が今のガマズミだといわれています。「本草網目啓蒙」には、薪を束ねるときにガマズミの枝を利用していたとの記載も載っています。
【2003年5月11日(日)】
○今日はセンターのイベントの中でも人気の高い「楽しい草花遊び」の日です。講師の滝沢清先生のテンポの速い進め方によって、チガヤの白い穂を試食してから、シロツメクサの首飾り、オオデマリやニセアカシヤの花をコウゾの皮で結んだ首飾り、サラサドウダンの花をオナモミで止めたブローチ、ショウブの葉の葉鉄砲や笛、レンゲソウの花をタンポポの茎に刺しての風車、クズの葉の葉鉄砲、それにスズメノテッポウ、イタドリ、タンポポ、カンゾウ、カラスノエンドウ、シラカシの葉、シノを使った笛と盛り沢山のメニュウに参加者もおおはしゃぎでついていきました。最後に滝沢先生の草笛に合わせて参加者が習ったばっかりの草笛で「幸せなら手を叩こう」を合奏して盛況のうちに終わりました。次回の「楽しい草花遊び」は9月21日です。
【2003年5月10日(土)】
○草原のギシギシの葉の上に金属的な光沢のある緑色の地にクリーム色の線模様をした、アカスジキンカメムシが一匹うろついていました。羽化し立てはクリーム色の線ですが、次第にクリーム色の線模様は光沢のあるアカスジの線模様に変わっていきます。カメムシの中でもキンカメムシ類はペンダントにしたいくらい美しく、嫌な匂いも他のカメムシと比較して強くはありません。おもにフジやミズキ、ハゼノキの葉や実の汁を吸い、餌としています。幼虫は白と黒のツートンカラーで枯葉の下や木の皮の下で越冬し、他のカメムシのように集団を作って越冬はしません。
【2003年5月9日(金)】
○ハリエンジュも総状花序に集まった2pぐらいの白い蝶形花を10pぐらいに垂れ下げて、甘い芳香を四方に振りまいて咲いています。一般にはニセアカシアとか、単にアカシアと呼ばれることが多い落葉高木で、明治の初め頃北米から日本に街路樹などとして持ち込まれた外来種です。このため日本の詩歌に登場するアカシアはハリエンジュを指している場合が多く、また、アカシアの蜂蜜も一般にはハリエンジュの花の蜜だといわれています。栄養分の少ない土地でも窒素を固定することができ、成長も早いのです。根が浅くしか張らないので風や雨の災害には大変弱い樹木です。また、繁殖力が強いため、在来の植生を圧迫し、日本生態学会が作成した「日本の侵略的外来種ワースト100」のリストのも含まれています。
【2003年5月8日(木)】
○枝先にミズキが沢山の白い花のかたまりを階段状に付けて咲いています。太い枝は幹から輪生状に出て水平になるので、階段状の樹形になります。この階段状の樹形は1年に1段ずつ成長して伸びていきます。また、ミズキは根の吸水作用が非常に強い樹で、とくに春には水を吸水する力が最高になるので、この頃枝を切ると切り口から水がしたたり落ちることから、ミズキ(水木)と名付けられたといわれています。枝は小正月の繭玉飾りや首を回すとキュキュと鳴る鳴子のこけしの材料に使われています。「木の花の散るに梢を見上げたりその花のにほひかすかにするも 木下利玄」
【2003年5月7日(水)】
○ウメ林を従えるかたちでウメの木の上空に、落葉低木といわれているコウゾが、枝に赤紫色の丸い花を沢山付けて咲いています。この公園のコウゾの木は10mぐらいの高さがあるので、栽培されていたコウゾか雑種ではないかと思われます。6月頃集合果で丸くて甘い朱色の実を付けます。コウゾはミツマタ、ガンピと共に和紙の原料であり、本県の小川町の細川紙や岐阜県の美濃紙などはコウゾを原料として作られます。なお、千円札や1万円札などの日本の紙幣はミツマタを原料にしています。
2003年5月5日(月)】
○タチツボスミレ、ノジスミレと始まった公園のスミレの季節もマルバスミレ、スミレ、コスミレ、ヒカゲスミレと続き、白いニョイスミレを最後に終わろうとしています。今年は新しくアオイスミレが見つかり、公園のスミレの仲間に加わりました。明治時代の文学においては、スミレに託して自己の心情を詠った、与謝野鉄幹や晶子らの「明星派」を別名「星菫派」と呼んでおり、これに対して夏目漱石などを「現実主義派」と呼んでいます。漱石の俳句に「菫程な小さき人に生まれたし」とスミレへの願望を示すと思われる句を見ると、明治時代の人にとってはスミレは憧れの花だったということがいえます。
【2003年5月4日(日)】
○淡い紅紫色で中央に紫色の斑点が入っている、唇形の花のカキドオシも花の季節を終わろうとしています。花の茎は花の時期は立っていますが、花が終わると倒れて蔓状に伸び、長くはって垣根を通り越してしまうというのでカキドオシと名付けられました。葉はハッカのような清涼感のする香気があり、日本のハーブといった感じがします。カントリソウとも呼ばれ糖尿病や腎臓病に効く薬草として古くから知られており、また、乾燥してお茶で飲むと柔らかな酸味と甘味が程良く調和して美味しいといわれています。
【2003年5月3日(土)】
○公園では新緑と共に春の草木の花々が80種類以上も咲いています。公園に咲く代表的な春の花は、黄色に咲く花をのぞくとスミレ類が数種、キランソウ、カキドウシ、ショカッサイ、ナズナ、オオイヌノフグリ、タチイヌノフグリ、ムラサキサギゴケ、トキワハゼ、キュウリグサ、トウダイグサ、カラスノエンドウ、スズメノエンドウ、カスマグサ、タンポポ類、ハルジオン、ヤブジラミ、スズメノカタビラ、アマドコロ、ササバギンラン、ホウチャクソウ、イヌザクラ、ミズキ、ハナイカダ、ニシキギ、コマユミ、ニワトコ、ヤマツツジ、フジ、コウゾ、マグワ、カマツカなどの花が咲いています。
【2003年5月2日(金)】
○春の公園の園路などでは上向きに咲く黄色い花が目立っています。セイヨウタンポポ、ヘビイチゴ、ヤブヘビイチゴ、オヘビイチゴ、ミツバツチグリ、キジムシロ、ジシバリ、オニタビラコ、ヤブタビラコ、コマツナなどが黄色い花を咲かせています。樹木の若葉が出たばっかりの青空が樹冠からすけてみえる春の環境の中では、黄色い花が昆虫を花に誘引するには最も効果的な色だと考えられています。公園の中でもモンシロチョウやツマグロキチョウ、ベニシジミなどが黄色い花に止まっているのをよく目にします。
【2003年5月1日(木)】
○県内各地のフジ祭りのニュースがマスコミに乗るようになりましたが、園内のフジの花も天から降ってきた羽衣が高木に掛かったような形で、花の香りを四方に振りまいて咲いています。フジは古くから衣食住に用いられたり、古典に現れたりして身近な存在の植物です。「古事記」には弓矢から着る物までフジの蔓で作っていたという記載があり、「万葉集」ではフジを詠った歌が28首、「源氏物語」は作者が紫式部、光源氏の最愛の女性が「藤壺中宮」、また、後に東宮の女御になる幼い明石の君が藤の花に例えられています。「枕草子」では「めでたきもの」として「色あいふかく、花房ながく咲きたる藤の花」と、「徒然草」では「藤のおぼつかなきさましたる風情が思い捨てがたい」といっています。「草臥(くたびれ)て宿かる比(ころ)や藤の花 芭蕉」
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